広島赤十字・原爆病院は、手術支援ロボット「ダビンチ」を導入し、拡充しています。
手術支援ロボット「ダビンチ」について、1度は耳にされたことがあるのではないでしょうか。ダビンチはアメリカのインテュイティブ・サージカル社が開発し、1999年にヨーロッパで運用が始まりました。2021年には、世界で約5400台、日本では約400台が使われています。手術支援ロボットといっても、実際にロボットが自分で手術するわけではありません。医師がロボットの腕を遠隔操作して行う手術で、これまでの手術に比べ「より細かく正確に、体への負担も少ない」というメリットがあります。その手術支援ロボット「ダビンチ」の特徴や、当院が行っている術式などをご紹介します。
「ペイシェントカート」には医師が操作する4本のロボットアームがついていて、その先端に切開・縫合などをする器具や内視鏡を取りつけます。「ビジョンカート」には内視鏡カメラの映像が表示され、サージョンコンソールで操作を行っている医師が見ているのと同じ映像を、ほかのスタッフも共有できます。
操作技術を習得した専門医師がロボットアームの操作を行います。ロボットアームは医師の手の動きと完璧に連動し、自分でメスを持っているような感覚で手術ができます。
人間の手は2本しかありませんが、ダビンチは3本のアームで手術を進めます。医師の手として切開・縫合などをする器具は従来のメスや針よりも小さく、かつ人間の手首では不可能な360°の回転ができ、狭い空間でも自由に操作できます。また、手ぶれを補正する機能もあり、細い血管の縫合や神経の剥離など高い集中力を必要とする細かな作業を、正確に行うことができます。
医師の目となる内視鏡は、鮮明かつ立体的なハイビジョン画像と、術野を10倍まで拡大するズーム機能によって、術者による質の高い手術が可能です。
手術部位の近くに数箇所空けた7~20mmほどの切開創から手術を行うため、傷が小さく大きなあとを残しません。また、出血や傷の痛みも少なく術後の早期回復が見込めることから、早く退院できる可能性が高くなります。
当院で実施しているダビンチ手術のメリットについてお話します。
前立腺は男性の生殖器官の一部で、膀胱の下・直腸の前にあるくるみほどの大きさの臓器です。前立腺がんは男性では最も多いがんで(2018年)、排尿のコントロールが困難であることや排尿時の痛み、尿の出が弱いこと、勃起困難など様々な症状があります。ダビンチを用いた手術の場合、従来の開腹手術や腹腔鏡手術に比べ、出血の抑制や入院期間の短縮のほか、困難とされていた尿道と膀胱の吻合(つなぎあわせ)が正確に行えること、排尿機能・勃起機能のより早い回復や神経および直腸損傷の低減などのメリットがあります。
直腸は糞便の排泄に関わる臓器です。早期では自覚症状はほとんどなく、進行すると血便、下血、下痢と便秘の繰り返し、便が細い、おなかが張るなどの症状が出ることが多くなります。血便や下血は、痔などの良性の病気でも出る症状です。大腸がんの早期発見のためには早めの消化器科受診が大切です。直腸の手術部位は狭く奥深い骨盤内となりますが、ダビンチの多関節機能などのメリットを最大限活かせば、正確で繊細な手術が可能となります。それによって根治性の高さ、肛門・排尿・性機能などの機能温存や早期の回復が期待できます。
直腸以外の大腸(結腸)に発生する癌にもロボット手術が適応となりました。特に難易度の高い高度進行癌や肥満患者さんに対しても安全な手術が可能となりました。
ダビンチの立体画像を活用したリンパ節の切除や、腸管を切除したあとの再建(つなぎあわせる)という複雑な動作をおなかの中で行うことで、患者さんに従来の腹腔鏡下手術以上に身体の負担を減らす効果が期待できます。
早期はほとんど無症状のため、検診などの胸部X線検査やCT撮影で偶然肺がんが見つかることが多いです。咳や痰、胸痛などは進行期の症状で、特に血痰は肺がんの可能性が高いので早めの受診をお勧めします。ダビンチによる内視鏡下手術は開胸手術より体への負担が少なく、かつ、胸腔鏡手術の欠点であった直線的な動作制限もありません。切開・縫合などをする器具の可動域が大きく(人には不可能な360度関節)手ぶれ補正機能があり、心臓の近くの血管や気管支の剥離など、緻密さが要求される作業も正確にできます。