2020.05.26
医療の知恵
がん細胞と免疫のお話
わたしたちの体は、約60兆個もの細胞から出来ています。そのうちの約1%が毎日新しく入れ替わり、6,000億個の細胞が死んで、新たに約6,000億個の細胞が細胞分裂により誕生しています。細胞分裂の際に、細胞の設計図にあたるDNAを毎日約6,000億回コピーしていますが、私たちの体はこのDNAコピーを失敗することがあります。多くの場合、コピーミスした細胞は死んでしまいますが、あるDNAにコピーミスが生じると、細胞は死ぬことができなくなり、止めどもなく分裂を繰り返すことになります。この「死なない細胞」ががん細胞で、実は毎日5,000個ものがん細胞が生み出されている事が知られています。
毎日5,000個ものがん細胞が生まれている割にすぐにがんにならない理由は、わたしたちの体には元々、がん細胞が発生したときの備えがあり、それはいわゆる免疫の働きです。免疫は、体外からやってくるウイルスや細菌などを退治するだけでなく、体内に出来た異常な細胞であるがん細胞も退治する働きがあります。免疫細胞(リンパ球)は、どの細胞に対してもまず自分の細胞かどうかを見極めます。そして、自分の細胞でないと判断すると、退治します。ところががん細胞は、もともと正常な細胞から発生しますので、免疫細胞にとっては「異物」と認識しにくい、または何らかの影響で免疫力が低下した時など、がん細胞を全て退治できず、生き残らせてしまうことがあります(図1, 2)。
生き残ったがん細胞は、やがて塊となっていきます。1センチ以下のがんは検査しても、発見がなかなか困難で、検査で確認できるような初期のがん(約1cm)は、約10億個のがん細胞から出来ているといわれており、また1個の細胞が10億個の数になるまでに10~20年の年月ともいわれています。つまり、今、発見されたがんの元になるがん細胞は10~20年前に生まれていたもので、また今現在、私たちの体中で10年後、20年後にがんとして発見されるがん細胞が生まれて育っているかもしれません。
第三外科部副部長 金城 直