2021.06.16
医療の知恵
腸内細菌の話題
私たちの身体(内部・表面)に棲みついている細菌(フローラと呼びます)は1000兆個に及ぶそうです。なかでもヒトの腸内には100兆個、1000種類を超える細菌がおり、その重さは1.5キロにもなるとか。腸内フローラは最近、その重要性から「もう1つの臓器」とも呼ばれています。
様々な細菌を培養することは概して困難で時間もかかるため、研究の足かせになっていましたが、細菌の遺伝子を増幅して調べる方法が開発され、さらに次世代シークエンサーの登場によって高速、網羅的に調べられるようになりました。
腸内フローラと健康、病気、免疫機能などの関係が次々と報告されています。消化器の病気だけでなく、肥満や糖尿病、高血圧、動脈硬化等の生活習慣病、がん、感染症、アトピー、うつ病、自閉症などさまざまな病気と関わっていることがわかりました。
腸内フローラをコントロールして病気の予防や治療に役立てる試みも進められています。健康な人の腸内細菌を病気の人の消化管に移植する治療法はその一例で、潰瘍性大腸炎やクローン病などの難病、偽膜性腸炎、アレルギー等での有用性が報告されています。将来有用な腸内細菌を増やすような治療薬の創薬につながる可能性があります。
各種抗がん剤(オプジーボやサイクロスポリンなど)の効き方に腸内細菌のバランスが影響することがわかり、治療効果をより高める方法が探られています。
肥満や糖尿病の原因となる腸内細菌を選択的に抑制する方法として、免疫グロブリンAを誘導するワクチンが開発され、その効果はマウスで確認され、他の病気への応用も期待されています。
腸内細菌を含む食品で免疫システムが活性化され、インフルエンザウイルスによる呼吸器感染症の重症度が改善したという報告があります。新型コロナウイルス感染症については重症化と腸内フローラの異常の間に関係を認めたという報告があり、世界各国で研究が進められています。
今後さらに腸内フローラの働きや制御法に関する知識が深まり、健康状態のチェック、健康増進、病気の予防・治療に応用されることが期待されます。
第一健診部長 越智秀典