2023.06.19
医療の知恵
糖尿病とスティグマについて
糖尿病診療の世界では、数年前から「スティグマ」という言葉がよく聞かれるようになりました。みなさまはお聞きになったことがありますか?
「スティグマ(Stigma)」とは、ギリシア語で「(棒で突いて)印をつける」から派生した言葉で、もともと奴隷や犯罪者の身体に刻印された「しるし」に由来します。現在では、社会的に立場の弱い人々に対する差別や偏見などを含む広い意味に使われています。
糖尿病の治療を継続していく中で、家族、友人、同僚、医療従事者など周りの人たちからの非難や、自己管理ができないなどの決めつけが大きな問題となります。さらには、「社会的スティグマ」と言って、生命保険に入れなかったり住宅ローンを断られたりといった問題が起きたり、「自己スティグマ(セルフスティグマ)」と言って自分に自信がなくなる(自尊心の低下)ことから、医療者に「(血糖値が悪くて)すみません」と謝ったりするなどの行動があります。スティグマがあると、患者は糖尿病であることを周囲に隠したり、ケアを受けることを避けるようになったりするとされています。
私たちは、医療者が烙印を押さないということを大切にしたいと思っています。自分たちが考える理想を一方的に押し付けるのではなく、一人一人の生活や人生に寄り添った医療を提供するよう心がけていきます。
内分泌・代謝内科部長 亀井 望